お昼近くになってようやくイランの西バスターミナルに到着。彼からイラン国内からイスタンブールへの航空券は高いこと(だから彼もバスでイスタンブールまで往復したらしい)、このバスターミナルからイスタンブール行きのバスは毎日出ているということ、その他のイラン国内での注意事項などを聞く。さらに困ったときのためにと、テヘランにいる彼の妹さんの連絡先も教えてもらう。
彼の勧めでタクシーにて市内へ入ることにする。彼に別れを告げてタクシーに乗り込む。どうやらこのドライバーも日本で働いていたらしい。しかし先ほどの彼と違って、片言の日本語しかしゃべれない。とにかく安宿の集まるイマームホメイニ広場まで行ってくれとたのむことにする。
中心街に近づくと、これから行くホテルの名前を教えろといってくる。ところがこれから行こうとしているのは安宿なので、名前をいうだけでは場所がわかるはずがなく、名前と合わせてもう一度イマームホメイニ広場まで、と念を押しておく。
ところがここからが問題なのだが、その安宿と同じ名前の中級ホテルが存在するのである。そんなことも知らずに、彼は街行く人々にそのホテルの名前を出して行き方を聞こうとする。当然のことながら、聞かれたほうは同じ名前の中級ホテルのことだと思い、そちらへの行き方を教えてくれるのである。そして彼もそちらのほうへ行こうとする。これは困ったことになったと思い、何度も彼に「イマームホメイニ広場」「イマームホメイニ広場」というのだが、彼は耳も貸さずに道行く人々にホテルの名前を連呼しつづける。
そんなことが20回近くも繰り返され、彼もわたしがかんかんに怒っているのにようやく気づき、なんとかイマームホメイニ広場に向かい始める。ここまででかなり時間を無駄に費やしてしまった。ようやく目的の宿にたどり着いたものの、結局その宿は閉まっており、他の宿を探し始める。結局このあたりにいい宿は見つからず、他の地域をあたることにする。
ホテルに着くたびにまず彼が先にホテルに入り、その後でわたしが中へ入るのだが、どうも心なしか値段が高いような気がする。先ほどまでのいらいらも重なり、 彼がいるからホテル側が値段の上乗せをしているのでは、という疑念が湧いてくる。もしよければうちへ泊まるか、といったことも言ってくるのだが、これも断っておく。
最終的に Iranshahr Hotel というホテルに着いたのだが、ここでホテルのスタッフから、運転手がわたしにいくらかの料金を上乗せしてくれといっている、などと告げられる。先ほどまでの経緯もあり、この時点で彼に対する不信感が爆発する。乗るときには20000Rlsと言っていたのだが、かなりの上乗せを要求しているようである。
こちらの行きたいところへ連れて行かず、間違ったところへ連れて行こうとしつづけたのになんてことを言うのだと怒ってしまい、「20000Rlsしか払えな い。」と突っぱねたものの、ホテルのスタッフからも「とにかく30000Rls払ってあげてください。」といわれる。ホテルのスタッフは誠実そうに見えたので、彼らの言うことに従い30000Rls払おうとするが、運転手はわたしの持っている他のお札にも手を伸ばしてくる。さすがにこれにはわたしも怒ってしまい、ホテルのスタッフが彼を追い出してくれる。
状況が一段落したあと、みんなに「お騒がせして申し訳なかった。本当はこんなことはしたくなかったのだが。」と告げ、それまでの経緯をすべて話す。みんなも状況がわかったようで、苦笑している。フロントの人たちはみんな親切そうであり、それでわたしの心も落ち着きを取り戻す。
とにかく部屋のほうへ向かい、一休みする。部屋に入ると、すぐに女性従業員が果物の盛り合わせを持ってきてくれる。シングルでUS$25・ビュッフェスタイルの朝食つきなのだが、料金と比べるとかなりのよいサービスである。多くのスタッフが流暢な英語を話し、言葉の面では苦労しがちなイランにおいては本当に助かる。一般に「地球の歩き方」で薦められているホテルにははずれも多いのだが、このホテルに関しては珍しくあたりであった。
このホテルで気づいたのだが、かなり多くの女性が働いているのである。イランといえば、女性はチャドルの着用を義務付けられ、女性の社会進出など考えられない、と思われがちなのだが、実態は逆で、チャドルさえ着ければ女性も比較的自由に外出でき、仕事もすることができるのである。この面においては、同じイスラム圏とはいっても、アラブの国々とは大きな違いである(イランはアーリア人の国であり、アラブ人の国ではない)。
二晩続けて夜行バスに乗っていたので、ひさしぶりのシャワーを浴び、街へ出る。中心街にあるフェルドゥスィー広場まで来ると、闇両替屋がたくさん立っており、声をかけてくる。ためしにレートを聞いてみるが、国境のときほどよくない。実際に両替しようとすると、小額紙幣をたくさん混ぜてきたりして、だまされるのではないかという疑念が湧いてくる。
ある闇両替屋の場合は、紙幣と合わせて一枚の紙切れを出してきたので、「これは何か。」と聞くと、「これは小切手だ。十分使えるから心配ない。」などと言ってきた。当然のことながら信用できないので、お断りして離れようとしたのだが、「なぜ両替しないんだ。ちゃんと使えるぞ。」と言って付きまとってくる。とんでもないやつである。
バザールまでやってくると、すごい人だかりになっている。香辛料などに加え、金や銀細工を扱う店がまばゆいばかりに立ち並ぶ。イスラム圏はどこでもそうなのだが、この国もバザールの活気はなかなかのものである。