イスファハン行きのバスに乗るため、南バスターミナルへ向かう。その前に闇両替ができればと思い、ある両替屋に話しかけると、彼の店へ連れて行かれる。洋服屋が彼の本業らしい。US$1=80000Rlsでどうかと話を持ちかけると、「馬鹿なことを言うな。75000Rlsだ。」といわれる。
彼によると、前日にイランとアメリカ政府による接触が持たれ、関係改善の見込みができたらしく、そのためにリアル相場が上がったと言うのである。残念ながら事実が確認できないので、両替をせずに済ますことにする。両替の交渉自体は激しかったが、バスターミナルまでの行き方などは丁寧に教えてくれ、バスに乗る際の注意などもしてくれる。
乗り場に着くと一人の男性が話しかけてくる。言葉はさっぱり通じないが、どうやら彼もイスファハンへ行くらしい。いっしょに行こうと誘ってくれているみたいなので、とりあえずついていく。そうするともう一人の若い男が話しかけてくる。さっぱり何をい言おうとしているのかわからないが、やたら自分の財布を開いて振りかざしてくる。どうやら自分も日本に行って金を稼ぎたいとでも言っているらしいのだが、まったく興味もないので無視しつづける。それでもしつこく繰り返してくるので、本当に鬱陶しくなり疲れてしまう。
別れ際になって書く物を出してくる。どうやらわたしの住所などを教えろということらしい。つまり、日本まで来てわたしに連絡をとれば仕事が見つかる、とでも考えているようである。こういう甘い考えをしている人間がいるからこそ、安直に日本へ仕事を探しにやってくる人間が増えつづけているのであろう。国境であった彼ほど真剣に考えている人間は少ないに違いない。
バスは程なく見つかり、そのバスに乗り込む。途中バスが食堂に止まり、休憩を取る。さっそくザムザムコーラを頼む。これはイラン独自のコーラであり、コカコーラに負けず劣らずおいしい。ザムザムコーラだけでなく、ザムザムファンタもある。
変化のない風景を見ながらイスファハンへ到着する。ここでは有名な安宿である Amir Kabir Hostel に泊まる。チェックインしてしばらくすると、アジア系らしい宿泊者に出会う。ところが彼は日本人のようにも韓国人のようにも中国系のようにも見えない。あまり旅先では見ない顔立ちである。話を聞いてみると、なんと彼はタイ人らしい。韓国人や香港人・シンガポール人の旅行者と出会うことは会っても、さすがにタイ人の旅行者とだけは出会ったことがなかった。
彼と話しているうちに、神奈川からきたX君がやってきて会話に加わる。けっこうおやぢ臭く見えるのだが、わたしより9歳も年下らしい。フリーランスのライターをやっているのだが、なんといつのまにか某ガイドブックの執筆陣に加わることになっていた。世の中というのはわからないものである。
宿に荷物を解いた後、街へと繰り出す。もう夕方近くであったので、とりあえず近くのイマーム広場へ向かい、日没後の風景を楽しむことに決める。よくガイドブックなどにはここの広場でライトアップされた美しい写真が載っているのでそれを見たいと思ったのだが、残念ながら噴水が出ていない。理由はよくわからないが、大きい期待のひとつを裏切られてしまった。結局私の滞在中には噴水からの水を見ることはなかった。
その後ザーヤンデ川に掛かる橋の夜景をながめたあと、宿へと戻る。先ほどのX君と一緒に食事でもと思ったのだが、姿が見当たらない。仕方なく一人で食事に向かう。後で彼から聞いた話によると、何でも列車の中でであった地元の人の家に行っており、そこに泊まったらしい。彼はこの後も何度か同じようなことがあったらしい。そういうことに恵まれている星の下に生まれているのだろうか。
レストランに行くと、メニューとして用意されているのはチュロウ・モルグ(鶏の煮込みとご飯)、チェロ・ケバブ(ケバブとご飯)だけなのである。このあとどこのレストランに行ってもほとんど同じありさまであった。それゆえにテヘランのホテルでの朝食が旅行中の食事としては最高であったと書いたのである。