この街の中心には1km以上にわたってバザールが続いており、小さい街ながら活気に満ちている。とりあえずその中にある有名なチャイハネ・ヴァキルに入る。昼食も食べられるとのことだったのでさっそく注文しようとしたのだが、入り口にて食券を買わないとだめだといわれ、入り口へ戻る。しかし当然のことながらメニューはすべてペルシャ語にてかかれており、注文するにも一苦労である。
とりあえずアーブ・グーシュトなるスープ料理をたのむことにする。壷に入った料理が出されてきたのだが、棒も一緒に出されてきたのでどうやって使えばいいのかとまごまごしていると、その棒で中身をつぶせといった仕草をしてくる。そしてそのつぶした豆や肉の中にナンを入れて食べるらしい。これはこれまで食べてきたイラン料理とは目先が変わっており、焼いた羊に飽き飽きしたわたしにとってはほっとする料理であった。
食事も終わり、席も移ってチャイを飲むことにする。先ほどまでの席には他の客は一人もいなかったのだが、こちらでは他にも多くの客がチャイや水パイプを思い思いに楽しんでいる。なんともいえないクラシックな内装、店全体に漂う優雅な雰囲気、何時間いても飽きることのない場所であ.る。
十分にその雰囲気を満喫したあと、ふたたびバザールへと繰り出す。この間ヤズドで食べたモクートというお菓子を見つけたので食べに入る。味そのものはよかったのだが、問題は店員の態度である。私が腕時計につけていたコンパスを目敏く見つけて、しつこく「くれ、くれ」と要求してくるのである。そもそも地図を読むことができるかどうかもあやしい人間にコンパスが何の価値があるというのか。(日本のように誰でも地図が読める国のほうが珍しいのである)
鬱陶しい店員を振りきり、バスターミナルへと向かう。いよいよここからは19時間におよぶ夜行バスの旅である。長旅に備えてここは一般のバスの倍近い料金もするセイロ・サファルという会社のバスを選ぶ。といっても、料金はほんの数百円なのではあるが。
何もない台地の中をどんどんとバスは進み、時々休憩のためにバスは止まる。たまたまこのバスの車掌は英語をしゃべることができ、食事の際にもいろいろと面倒を見てくれ、他の英語をしゃべれる学生たちにも引き合わせてくれる。
暗闇の中をどんどん進んでいくと検問所にぶつかり、全員バスから降ろされ、荷物も全部持って検問所に入るように告げられる。とりあえずバッグは開けさせられるが、重々しい雰囲気はない。係官たちから「おしん、中田」の声がかかる。あいかわらずこちらにおけるおしんの人気はすごいようだ。バスに戻り、ふたたび暗闇の中へと繰り出していく。