そのうちにあたりが白み始めて夜明けがやってくる。一睡もせずにこの部屋の中で過ごしていたのである。トルコ時間の5時ごろになってようやくトルコ側の入管が開く。でも手続きは遅々として進まない。荷物検査も特にされることなくトルコへ入国する。バスへ戻り、ふたたびイスタンブールへと歩を進める。
朝食のためにロカンタへ入る。イランとは比べものにならないくらいメニューがそろっている。イランでの食べ物の恨みを晴らすかのようにいろいろと食べまくる。本当に隣国だというのに、食事の面ではイランとトルコは天と地の差がある。このあとも昼食・夕食とありとあらゆるものを食べまくる。
ロカンタで食事中に一人のイラン人男性から声をかけられる。彼はタブリーズ在住で、以前日本にもいたことがあるらしい。ある程度日本語もしゃべることができる。いまはタブリーズで貿易に携わっているとのことである。ところが、彼が私に話し掛けるたびに「日本人、日本人」といってくる。なぜそんな呼びかけをするのかよくわからなかったのだが、よく考えてみると、イラン人がよく日本人に呼びかけるときに使う「ジャパニ」というのを直訳して使っているようなのである。
その彼から日本へ仕事に行くときにビザを取るのが大変なのだが、もしよければそのビザを取るための保証人になってくれないかと話を持ちかけられる。当然のことながら断る。こちらの感覚ではつい先ほどあ会ったばかりの人間にでもこういうことを頼むのは普通のことなのであろうか。
バスはひたすら夜の道をイスタンブールへと向かう。一つおかしなことに気がついた。予想以上の速さでイスタンブールに近づいているのである。先ほどから道路脇の標識を見ていると、どんどんイスタンブールまでの距離が近づいていく。このままで行くと真夜中に着いてしまうではないか。でもまさかそんなはずがない、どこかで時間調整をしながら進むのであろうと一人で納得する。
ところがいつのまにか見覚えのある風景が窓の外に広がってきた。結局深夜2時半ごろにイスタンブールに着いてしまった。それもオトガル(バスターミナル)などではなく、街中はアクサライの旅行代理店の前である。周りには休むところなど何もない。大方の乗客たちは迎えの車に乗っていってしまう。仕方なく残りの乗客たちとともに、旅行代理店の前あたりで夜明けを待つことにする。散々な旅の幕切れである。5時ごろになって近くのトラム乗り場に向かう。いくつかのチャイハネやロカンタが開いており、そこで夜明けを待つことにする。