他の離島行きの船が内海を航海するのに対し、波照間行きの船は外海も航海するのである。通常は竹富島・黒島・小浜島・西表島を横目に見ながら30分ほど航海したあと、外海に出て20分ほど航海する。この20分ほどが天候によっては地獄と化すのである。
べた凪状態ならよほど船に弱い人でもない限り、特に問題はない。ところが悪天になると状況が一変する。並のジェットコースターどころではない。船長さんはできるだけ波と直角に進んでいこうとする。平行になると横倒しになる恐れがあるからだろう。そして向こうから波がやってくると、波の一番上に乗ったときに一旦エンジンを停止する。そして船が着水したとき、再びエンジンを入れる。これを数十分も繰り返して進んでいくのである。このつらさは体験したものしかわからない。
通常だと前記のように50分ですむものが、ひどいときだと1時間半もかかったりする。こうなったりすると地獄である。もっとひどいときにはこんな地獄の苦しみを味わいながら、結局これ以上航行を続けられないと引き返したりすることもある。
ちなみにこのような状態になったとき、できるだけその影響を抑える方法がある。できるだけ船室の後方に乗ることである。てこの原理なのか、前方のほうが揺れ方が激しいのである。だから地元の人やリピーターなどは努めて後方の座席を選ぼうとする。前に座るのは事情を知らない波照間初心者ばかりである。かつて悪天候のときに乗るのが遅くなって前方の席しか空いていなかったのだが、あの時だけは生き地獄以外の何物でもなかった。
波照間航路には波照間海運と安栄観光の2社が就航しており、波照間海運はニューはてるまの1隻のみ、安栄観光では第78あんえい号がその任務に当たっている。航路免許の関係で、安栄のほうは多客期や悪天により波照間海運が運休する場合を除いては定員が12名と定められている。しかしながら実際にはこれを上回る乗客を乗せているのが実態である。
波照間海運のほうは所有する高速船がニューはてるま1隻のうえ、国から補助金も受け取っているため、悪天時には大事を取ってすぐに運休になるのに対し、安栄観光のほうは高速船を何隻も持っているためか、よほどのことがない限り朝の1便だけは必ず出すことが多い。というのも、朝の1便が海上の天候調査を兼ねているのと、1便には新聞や郵便物などの生活必需品が載せられているからでもある。両社とも1日3便ずつ出しているのだが、上記のような理由で一番運行される確率が高いのが1便、次に運行される確率が高いのが3便、一番欠航する確率が高いのが2便である。波照間へ旅行されるときにはこのことを記憶の片隅にとどめておいていただきたい。天候がよくない日に午後の飛行機に乗り継ごうとして2便に乗るのは大変危険である。おそらくその際は宿の人から指示が出るだろうが、その指示には従っておいたほうがよい。
悪天の場合も安栄観光は運行される可能性が高いのは上に書いたとおりだが、その結果として事故になってしまったこともあるらしい。悪天をついていざ出港したまではいいものの、波に打ち付けられて座礁してしまったようである。